読書 「そして誰もいなくなる」

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今邑彩作の長編ミステリ。創立記念祭の名門女子高で毒殺事件が起きる。アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を上演していた舞台の上で起こったこの事件を皮切りに、演劇部のメンバーが次々と殺されていく・・「そして誰もいなくなった」を見立てるように。

クリスティの「そして誰もいなくなった」自体も見立て殺人であったが、この作品ではその「そして誰もいなくなった」に見立てて連続殺人が起こる。作中のも出てくるように、見立ての見立て、という構造になっているのだ。だが、謎解きに関しては、その部分は特にケアしなくても良く、クリスティ作品を先に読んでおかなければならない、までの必要性はない。

ある意味では親切な伏線が張ってあるので、事件の犯人を推理するのは比較的容易ではあるが、さらに裏にある2人の人物の思惑がどんでん返しの要素があって、それが本作の読みどころとなっている。読み進めていく中で、「そんなこと、あるのかなぁ」と思っていた疑問も、最後の方にきて一応謎解きがなされ、あぁこれも伏線だったのだ、とは理解できるようになっている。私好みのパズル要素がふんだんにあり、なかなか楽しめるエンターテイメント作品ではある。
ただ1点、どうしても納得できないところがある。作中では検討された様子がまったくないが、ネタバレ→高校の演劇部という限られた範囲で連続殺人が起こった(2人目の被害者が出た)時点で、警察なら関係者に警備兼監視の人員を割くはずだ、と思うのである。その時点で生き残っている演劇部員は8人だ。そう多くない数である。皆川という刑事が「未必の故意」的な殺意を持っていて、事件が進行することを願っていたにしても、警察全体の捜査を左右できる立場ではなかった。警察の普通の判断としては「警備」をつけよう、となると思うのだが・・。それから、皆川が娘のために犯した横浜での殺人と、それを江島小雪が見ていた・・という事件に関しては、そこまでを推理する材料は読者に提示されておらず、完全な後出しジャンケンである。「そして誰もいなくなった」でもテーマになっていた、「裁かれざる犯罪を裁く」をトレースし、完全な「本歌取り」を達成しようとした作者の狙いは分かるが、おそらくはこの都合の良さに興醒めしてしまう読者の方が多いのではないだろうか。となれば・・・、作者の心意気を汲む意味では、クリスティ作品を先に読んでおいた方が良いのかもしれない。

同様に「そして誰もいなくなった」見立ての作品であれば、私は西村京太郎の「殺しの双曲線」をプッシュしておく。トラベルミステリ以前の西村の力量は素晴らしい。昔も今も、異常に読点が多い文章だが・・(笑)。


そして誰もいなくなる (中公文庫)
中央公論新社
今邑 彩

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この記事へのコメント

れもん
2010年10月13日 22:17
こんばんは^^
今日、読み終えた作品です。
意外とすごいなぁと思いつつ本を閉じたのですが、言われてみると矛盾がありますねぇ。
気づかなかった・・・。不覚です^^;
やはり購入して、再読しようかと思います。
2010年10月13日 23:22
れもんさん、こんばんは。ようこそ、いらっしゃいました。私のへそが曲がったところについているだけかもしれず、それに私も楽しく読んだのは確かです。
私の方は、クリスティの方を再読しようかと思いました。

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    Excerpt: 名門女子校の式典の最中、演劇部による『そして誰もいなくなった』の舞台上で、服毒死 Weblog: 晴れ、ときどき読書 racked: 2010-10-13 22:20